前回の基礎編を踏まえ、建物をZEBとするには一体どの程度の性能が必要となるのか?5階建て・1000㎡程度の建物を想定して試算してみました。
試算用モデルは、札幌市内に建つ木造5階建て延床926.05㎡の事務所ビルとしました。今回は木造としましたが、構造はS造でもRC造でも計算結果に影響はありません。外皮性能は、開口部に樹脂サッシを使用し(ガラスはトリプル/ペア使い分け)、断熱は一昔前の住宅程度としています。主な設備機器として、空調は寒冷地タイプ(非高効率)とし換気は熱交換型1種換気と3種換気を併用、照明は全てLEDとしています。建築研究所が公開しているWEBプログラム(標準入力法)を用いて試算した結果が下記となります。
ZEBで重要となる数字は、エネルギー消費性能BEI(Building Energy Index)の数値です。BEI=1.0が基準となる数値でこれ以下となればそれだけエネルギー消費性能が高い(省エネである)ことになります。 ZEBにするにはまずBEIが0.5以下であるZEB readyの数値をクリアする必要がありますが、試算ではBEIが0.48となり、いきなりZEB readyを達成してしまいました。特別断熱を厚くしたり、高効率な機器を入れたりした訳では無いのにこの数値…基準となる数値が低すぎるのでは?と不安になるレベルです。個別の項目をみると、空調と照明の削減率が高く、エネルギー消費量の大きい項目を効果的に削減出来ているのがわかります。
ZEB readyをクリアしてひとまず土俵に乗ったので、次に太陽光発電の発電量を加味してNETのエネルギー消費量を下げていき、BEI=0.25(nearly ZEB)、BEI=0.00(ZEB)を目指します。手始めに、10kw程度の太陽光発電パネルを設置してみます。
9.75kwのパネルを設置すると、発電量は約91.6GJでBEIは0.8ポイント下がりました。方位は南向き、設置角度は30°と設定しています。これでいくとnearly ZEBであるBEI=0.25を達成するには30kw程の太陽光パネルが必要となりそうです。
29.25kwのパネル設置で、予想通りBEI=0.25の数値を得ることが出来ました。これでnearly ZEB達成です。試算の結果、ZEBとするための性能の目安は分かりましたが、30kwの太陽光パネルというと、水平投影面積で約150㎡となります。これを200㎡そこそこの屋根に設置するのは効率等考えると現実的ではなく、実際にはさらに外皮性能をUPさせた上でより高効率な設備機器の導入や、冷暖房負荷の見直しをして生のBEIを下げ太陽光発電の負担分を小さくする必要があります。もちろん、広大な敷地がありパネルを地上設置出来る場合等は別ですが、何れにしても計画毎の条件に合わせた詳細な検討が必要となります。
試算をして分かりましたが、BEIの基準値は驚くほど低く設定されており、ZEB readyの達成はそれほど困難ではありません。経済産業省の資料でも、オフィスビルにおけるZEB導入費用はこれまでの建築費の12%程度と見積もられており、イニシャルコストの大幅な増額は想定していないようです。
事業費の増額が少額で、光熱費含めたランニングコストの削減が見込め、就業環境が改善し労働生産性も向上し、企業のイメージアップにも繋がる。増額となった事業費を補う補助金もあり、新規の事業計画を練るうえでZEBを検討する価値は十分にあると思います。なにより、2050年カーボンニュートラルに向けた政府の強い意志を感じます。