もう一度、住宅断熱を考える

 先日、セミナーで北海道科学大学の福島教授のお話を聞く機会がありました。「もう一度、住宅断熱を考える」というのがテーマで、その中で断熱材を単なる暖房費削減のツールと考えるのではなく、他にも多々ある付加価値に目を向けようという趣旨の話がありました。

実際のものとちょっと違いますが、内容のイメージ

 断熱の価値として、暖房費の削減に始まり老後の安心まで。時間も限られていたので項目ごとの詳細な説明は省略されましたが、その中の健康増進の項目でデータを交えて興味深い話をされていました。曰く、英国保健省の冬季室内温度指針によると、室温が16℃未満になると循環器系疾患への影響が顕著に表れ、9-12℃では血圧上昇・心臓血管疾患のリスクが増大し、さらに5℃未満では低体温症を起こすハイリスクが確認されているとのこと。

欧州では寒さに対する意識が日本と全然違います。

 家の中が寒かったり、室によって温度差があると心筋梗塞などの疾患リスクが増えるとは漠然と思っていましたが、改めて指針として示されると恐ろしいものがあります。我が家の寝室なぞ就寝時に2℃とかの日が…もはや人間がまともに生活できる環境ではないということですね。我が家に限らずニッポン人は冬の寒さを僅かな採暖で耐え忍ぶ文化があるようで、それもデータから明らかになっています。

住環境計画研究所が各国の統計データより作成

 日本の暖房エネルギー消費量は各国の1/4程度と特出して少なくなっており、スカスカの断熱の家でいかに耐え忍んで冬を過ごしているかということが伺い知れます。反対に、環境大国のイメージが強いドイツは日本の4倍ものエネルギーを暖房に費やしています。これは、寒さへの意識の違いから24時間全室暖房が中心であることと、古い建物は断熱改修などが難しく断熱性能が不十分な住宅が多いことに起因します。さらに、欧州では冬季の室温の最低基準を法令で定めている国が多く、基準を満たさない賃貸住宅には改修・解体等の厳しい命令を下せることも後押ししています。

 日本政府にも、目先のエネルギー消費量だけに囚われるのではなく、それ以外の断熱の価値に踏み込んだ政策に舵をきってもらいたいところですが、色々なしがらみがあって現状では一筋縄ではいきそうもありません。