長期優良住宅のこと

 4月着工予定の、「みやのもりのいえ」の発注業務にようやく目処が立ちました。

 前の事務所の時からですが、一発目の見積はだいたい予算を超過します。内外装・設備・什器の変更ではおさまらず、構造を一から見直したこともありました。(これは一度だけ、特殊なケースでしたが…。)こう書いてしまうと、予算に無頓着な設計者と思われてしまうかもしれませんが、最終的には予算にきっちり合わせた設計を行いますのでご安心を。最初から、あれもダメこれもダメと可能性を狭めるよりは、まずは要望を最大限汲み取った計画としたほうが、お互いにストレスもかかりませんし、最初から下を向いていては良いものはできません。ただし、予算調整時にはその反動で設計者にこれ以上ないストレスとプレッシャーがかかるのですが…(苦笑)。もちろん、明らかに予算超過な要望はやんわりと否定することも忘れません。

 今回のクライアントの要望の一つに長期優良住宅というものがありました。長期優良住宅とはなんぞや?国交省のHPを見ると、『従来の「つくっては壊す」スクラップ&ビルド型の社会から、「いいものを作って、きちんと手入れをして長く大切に使う」ストック活用型の社会への転換を目的として、長期にわたり住み続けられるための措置が講じられた優良な住宅』とあり、平成21年の6月に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づく割と新しい制度です。「優良な住宅」の仕様にそって住宅をつくり、長期優良住宅に認定されると税制やローン金利などで優遇を受ける事ができます。  

 ふと見渡すと、世に溢れかえる中古住宅は(ごく一部の例外を除き)居住に耐えないペラッペラな住宅ばかり。リノベするにしても、一定の水準まで持ち上げるのにお金が掛かりすぎてしまい、新築と余り変わらないねと計画を断念する人もいるかも知れません。これでは空き家が増えるばかり。高度成長に身を委ね、無秩序に住宅を建てまくっていたつけが今押し寄せて来ています。過去の過ちを2度と繰り返さないように、政府が政策で引っ張っていくのは当然の事で、大枠では良い制度だとは思いますが問題が無いわけではありません。

 1つはその仕様について。実際に設計してみると分かりますが、長期優良住宅に求められる仕様は、耐震性があって、維持管理がし易く、部材の劣化に配慮してあり、最低限の省エネ性能(本当に最低限で全然物足りない)があること。と、当たり前の事ばかり。普段の設計から新たに検討したり、頭を悩ませたりすることはなく、本当にこれでいいのかと設計指針を何度も見直しました。これはいかにいい加減な家が、これまで世に排出されてきたかの裏返しでもあるのですが… 特に省エネ性能に関しては、更なる高みを目指した仕様であるべきだと思います。

 もう1つはメンテナンスの履歴について。建てた後は、申請時に策定した維持管理計画に沿ってメンテナンスを行い、その履歴を残します。住宅が中古市場に出回ったときに適切に維持管理が行われていたかの証明になるのですが、この履歴の管理方法にも問題があります。定期的なメンテナンスがしっかりと行われているか否かを確認するのは、長期優良住宅を認定した行政庁ということになりますが、その確認方法は定期的な報告等は求めておらず、行政庁が指示したときはすみやかに履歴を開示するという緩やかなものになっています。しっかりとした維持管理が行われているか否かは、結局は設計者とビルダー、そして建て主に掛かっているという事になります。当たり前と言えば当たり前なのですが、せっかくの制度なのですから行政庁まかせの中途半端なこととせず、5年毎の定期報告の義務化くらいはやっても良いのではと思います。

 法の施工から10数年が経ち、もう何年かすると実際に長期優良住宅が中古住宅市場に出回ることになります。良質な住宅ストックの形成は、果たして政府の思惑通りといくでしょうか?何れにしても、長期優良住宅という制度に囚われることなく、質の高い住宅を提供し続けることが設計者の責務と言えます。